ご挨拶
2024年12月7日更新
会長 中野雄司
この度、植物化学調節学会会長を務めさせて頂くことになりました。就任にあたりまして、ご挨拶を記させて頂きます。本学会は、2025年に60周年を迎えます。私は大学院生時代に当学会には参加したことはなく、学位取得後、理研和光キャンパスでポスドクとして研究を始めた年に参加した第30回記念宇都宮大会が初めての本学会への参加になります。それ以降、植物の生理現象について、植物生理活性化合物を手掛かりとして解明する研究概念と研究手法の面白さに魅了され、その興味を発展させる技術を取得するために研究留学もし、その海外在住の数年間を除く全ての大会に参加して30年になります。この 30年間、植物生理活性化合物研究の面白さ、重要性、将来性を感じる気持ちは年々強くなっており、その源は本学会にあるとも強く思っています。このような私が当学会から頂いたご恩を、会長として何とかお返ししていきたく思っています。よろしくお願い申し上げます。
就任に際しまして、本学会を盛り立てるために何をすれば良いか改めて頭の中を整理し、植物化学調節学会の目指す姿を3つの目標として提案することが出来るのではないか、その姿を目指せるよう理事幹事や社員の皆さん、会員の皆さんにも協力して頂き、学会活動を進めいけると良いのではないか、との考えに辿り着きました。以下にご提案させて頂きます。
1. 植物化合物研究の深化と発見の場としての植物化学調節学会
植物ホルモンとして知られる生理活性化合物の中で、少なくともジベレリン、ブラシノステロイド、ストリゴラクトンが本学会会員によってその当時の新しい植物ホルモンとして発見され、その他の植物ホルモンについても生合成研究、阻害剤やアナログの新規合成、シグナル伝達研究が毎年の大会では発表されています。それらの研究の深化は勿論今後も非常に重要で興味深い研究と考えられます。さらに、植物の生理過程において、今まで知られて来なかった種類の生理活性を持つ未知の天然有機化合物やペプチド性物質の発見が、続々と当学会において発表されています。必ずしも植物ホルモンという名称が重要と考えている訳ではありませんが、やはり植物ホルモンとは重い名称でもあるとも思います。その観点で、近年当学会で発表されている新しい化合物たちの中には、近い将来に植物ホルモンと呼称される日が来る可能性を秘めているものが多数含まれていると感じています。当学会での議論の場の提供、当学会での出会いに基づく共同研究、当学会誌における周知活動などにより、植物化学調節研究の深化と新しい植物ホルモンの発見を支える場となり、未来へ向けてより一層強固にサポートしていける植物化学調節学会になっていけるよう学会活動を推進していきたいと考えています。
2. 研究ネットワークを広げる場としての植物化学調節学会
植物化合物を日本国内で研究する多くの研究者や学生は、当学会の会員です。一方、伝統的に当学会は有機化学的研究分野が強く、天然化合物の単離と構造決定、生合成経路の探索、植物ホルモンの類縁化合物や阻害化合物の人工合成、など直接的な主ターゲットして化合物を扱う研究者の比率が高い傾向があるかと思います。それはそれで当学会の強みではあるのですが、近年は、生物系の研究技術も目覚ましい発展を遂げており、次世代シークエンサーを活用した網羅的なゲノミクス、タンパク質結晶化やクライオ電顕などを活用した構造生物学、高解像度蛍光レーザー顕微鏡を活用した細胞や個体のイメージング解析、などが華々しく展開しています。それらの新しい解析技術と植物生理活性化合物を組み合わせた研究は、新しい未知の領域の解明に繋がることは想像に難くなく、また非常に楽しく心躍るものです。ここ数年間、当学会では、このような新しい技術を持ち、植物化合物・植物生理活性化合物を扱っていながら、当学会には参加されたことのない研究者の先生数名をお招きするシンポジウムを企画してきています。また、今後は、理事や幹事を中心に、そのような方々に当学会への一般参加をお誘いするような試みを始めてみようと考えています。このような様々な形で、植物化学調節研究に関わるより多くの研究者の方々に集って頂き、研究ネットワークを広げる場として植物化学調節学会が活用して頂けるようになるべく、学会活動を推進していきたいと考えています。
3. 持続可能な植物化学調節学会(サステナブル植化調)
60年の歴史を持ち活発に活動してきた当学会ですが、学会運営における最近の約20年間は4名の非常に献身的な先生方によって、陰に日向に支えられて来たという個人的な印象を持っています。個人名ではなくイニシャルかつ敬称略で書かせて頂きますが、A、S、N、Nの御四方です。本学会会員ならば、なるほど、と思われる方も多いと思います(勿論、Nは中野のNではありません)。学会運営は、多岐に渡る実務的な事務、法務や経理から出版、他学会との渉外まで、研究者としての生活の中では使うことも学ぶことも少ない特殊な知識と経験が必要なものが数多くあります。これらの作業の多くが、この先達の方々によって担われてきた上で、私たちは、楽しく学会大会に参加してきた訳です。
実は、この先生方が、遠くない近年に、一線を退かれる可能性が高い年齢を迎えておられます。上に書いたように当学会会員が発見し展開し深めて来た研究は非常に重要で価値のあるものであると私は考えますし、この楽しい学会を維持することは重要であると考えています。また、さらに毎年、学生さんや若いポスドクや研究員の皆さんが学会に新しく加わって下さっていますので、このようなさらに若い次の次の世代にもこの学会を引き継いでいく使命が私たち新執行部にはあると考えています。そこで今期は、かなり多い数の若手研究者に幹事として理事会に加わって頂けるようにお声掛けをさせて頂き、幸い多くの若手研究者から快く引き受けて頂けるというご返事を頂きました。上記4名の先達の先生方には、今しばらく理事会メンバーに残って頂き、新執行部が橋渡しとして、学会運営の知識と経験を、次世代に引き継いで行きたいと考えています。研究ではなく学会運営に関わる裏目標的でもありますが、この運営方針を「持続可能な植物化学調節学会」「サステナブル植化調」と名付け、3つ目の目標としたいと考えています。
今後共、植物化学調節学会を盛り上げて頂けますよう、学会の正会員、賛助会員、学生会員、の皆さまには、宜しくお願い申し上げます。
中野近影(最前列向かって左)
植物化学調節学会・鳥取大会(2019年)懇親会後の2次会にて
(文中のA,S,N,Nの4氏も全員写られています)